上司に典型的なアチャーのポーズをさせてしまった話と、妻の友達を1人減らしてしまった話

国語が苦手だった人、とくに小説の長文読解問題が苦手だった人なら共感していただけるかもしれないが、話している相手からの質問に対して恥ずかしい不正解を答えてしまうことが結構頻繁にある。

以前勤めていた会社で、出張先へ向かう新幹線の中、2人の上司から僕の家族構成についていろいろ聞かれていたときのこと。1人の上司が「へぇ、お父さん、まだ働いてらっしゃるんだ」と言ったあと、もう1人の上司が「今おいくつ?」と尋ねたのに対し、僕は自分の年齢を答えてしまった。尋ねてきた上司は「違う違う!お父さんがおいくつなのかって」と笑い、もう1人の、僕に直接評価を下す立場にある上司は、手の平の付け根を額に当てるという典型的なアチャーのポーズとともに「もう、ほんとに……」と言って無意味に窓の外の茶畑のほうを向いてしまった。

この例から何となくわかるのは、僕は話の文脈を理解する能力がめちゃくちゃ低いということだ。文脈を無視してかなり頓珍漢なことを返した経験があまりにも多い。そのことを自覚しだしてからは、人と話すとき「文脈注意、文脈注意……」と、相手チームにかなり強いロングシュートを持ってるやつがいるときのゴールキーパーみたいな気持ちで身構えてしまう。

あと、苦手なのは文脈だけじゃない。質問してきた人自体のことも無視してしまうことがある。ちょっと説明が難しいが、「誰が言ってるのか」ということを考慮しないで、一般的な意見を返してしまうのだ。実はこっちのほうが重大な事態になりやすい。

大学院に通っていたとき、現在の妻が同じ大学の職員として働いていた。僕が研究室でなんかしてたある日、ちょうど学園祭期間ということで、彼女が職場の同僚の女性2人を連れてきて、僕と一緒に大学構内を回ることになった。焼きそばを買い、みんなでベンチに座って話していると、彼女の同僚の1人が、もう1人に促される形で僕に話し掛けてきた。それは、職場の飲み会で泥酔してトイレでうなだれていると、同じ職場の男性が介抱してきたが、そのどさくさに紛れてキスをされてしまったという体験談だった。話が終わったあと、別の誰かから「どう思う?」と聞かれたのに対し、僕は「そういう話って自分のステータスみたいに思ってるから話すんじゃないんでしょうか」という最悪な意見をぶつけてしまった(いま思えば一般的な意見としても最悪で稚拙だ)。当然その場は恐ろしいことになった。体験談の当事者の女性は目に涙を浮かべながら「なんでそんなことを言われなあかんの」と席を立って1人で立ち去った。それを僕以外の2人が追いかけていき慰めるも戻ってこず。この件で妻は友達を1人失った。

こっちの例のほうは「文脈注意」では対応できず、今でも気を抜くと不用意なことを言って人を傷つけてしまうことがある。たぶんこれは能力とか以前に、人間性の問題なのだろう。なので人間性に気を付ける必要があるが、人間性に気を付けるってどうするんだ(今のところとりあえず瞑想したりしているが)。

僕から酷く傷つけられたという方々、本当に申し訳ありませんでした。(中には本当に相手を傷つけたろうという意図で言ったどうしようもないやつもありますが、そういうことを言う癖は年齢を経るにつれ治りつつあるような気がしています)