滑舌について(武田邦彦先生への感謝)

子供のときから滑舌に振り回されてきた。声変わりにうまく対応できなかったのか、中学2年生くらいから滑舌が悪くなった。友達からも「なになにw」「もっかい」「なんて?w」をいつも返されていた。バラエティ番組で「噛む」という表現が流行りだしてからはよく「噛み噛みやんw」と言われ、芸人さんのまねごとで得意げになりやがってと腹立たしくなり、しかしそうやってケラケラ笑ってる人たちは自分より遥かにハキハキしゃべれていて羨ましくもあり、とにかく悔しかった。

自分でもなんでこんなに舌がもつれてしまうのか分からず、「舌の筋量不足が原因説」を立てて夜な夜な舌をぐるぐる動かすトレーニングをしたり、ほかにも「アゴ筋不足が原因説」「歯の噛み合せの悪さが原因説」「顎関節症などの病気説」「くちびるがいつも荒れてるせい説」「口の中の容積が小さすぎる説」「遺伝なので仕方がない説」「肺活量不足説」「栄養不足説」などいろんな仮説を立ててみたけど何も分からなかった。

そのうち治るだろうと思っていたが、会社勤めをするようになってからも悩まされた。コンディションによっては「まあまあ大丈夫な日」もあったものの、基本は噛み噛みで、毎朝「今日はどっちの日だろう…」と思いながらシャワーを浴び、浴室内の照明器具にある「直接お湯をかけないでください」という注意書きを音読して唇の筋肉をほぐしたりした。そういうことをすると変に意識してしまい逆に噛み噛みになりがち、という法則を発見したりもした。コンディションのいい日に会社に行くと、そうでない日のビハインドをまとめて取り返したろうという勢いで社交性を発揮していたので、人によっては不審に思われていたかもしれない。

ようやくマシになったのは3年ほど前のこと。テレビ番組『ホンマでっか!?TV』で、武田邦彦先生が「弁護士は訥弁(とつべん)」と言っているのを見たのがきっかけだ。訥弁、つまり口下手であるほうが誠実な印象を与えるので、弁護士にとってはむしろ武器になる、というような趣旨のことだった。そうか、噛み噛みのしゃべり方にもそれなりに良いところはあるんだな、と安心すると同時に、能弁、達弁、雄弁な人の様子を思い出して、たしかにちょっとうさんくさいよなと感じた。僕は、スラスラしゃべってる人のことをそんなに好ましく思っていないから、そうはなりたくないと、体が無意識に反応していた面もあったかもしれない。

というようなことを知ってからは、不思議なことに滑舌の荒れは少なくなり、"中の下"ぐらいのところで安定するようになった。武田邦彦先生にはとてもとても感謝している。